REPORT

書き物:いろいろ活動報告から雑感・妄想・昔話など。

2022-05-22-SUN

#9 クネクネ弱音カウンセラー

「あ、オカダさんだ・・・!」
思わず声が出そうになったけど、そうはいかない静寂の真っただ中。
数年前、某大学の大教室での社会人大学院入試の時のこと。思いつきの丸腰で挑んだものの、まっさらな解答用紙も見飽きて顔を上げてボーっと周りを見渡していたら、何百人の受験者の中からオカダさんを見つけたのだ。

オカダさんは広告会社勤務時の仲間のひとり。
誤解を恐れずに表現すると、いつも“朗らかに弱音”を吐きながら、“泣き笑い半々”の表情でシゴトをしている少し貧乏くじを引くタイプ。多くのヒトからプロジェクトを頼まれ、ヒトとヒトの隙間を埋めるような働き方をしていつも多忙なオカダさん。

試験会場から出たところで彼を捕まえて話しかける。 
「オカダさんも、“このテーマ”だったんですね!」
僕の結果は当然ながら、結局二人ともその大学院にはご縁がなかったものの、オカダさんが《心理学》を学ぼうとしているのにはすごく得心がいった。
彼はいろいろなヒトの“弱い音”を聴くのが得意。例えるならば《柔らかくて丸い高感度のアンテナ》。
ヒトは少し調子が悪かったり、苦労が続くと発信のトーンが落ちる。話す言葉も顔の表情も、体の動きも、すべてのボリュームが少し下がるのだ。オカダさんは、周りのヒトのそういった微弱な変化をキャッチして、それをやり過ごさないからこそ、仕事が増えて、いつのまにかチームがうまく回る潤滑油的な存在になっている。

ナマケモノの僕が心理学への興味が一服しているうちに、久しぶりにお会いしたオカダさんは、いつの間にか世界規格のコーチングの資格をとっていた。
メンバーそれぞれの強みを生かして、チームで助け合いながら働く ― そんな環境を作ったり支援したりすることは、ヒトの弱さに寄り添うことができるオカダさんにぴったりだ。

「聞いてくださいよ、もう大変なんですよ~」
彼はいつもフニャフニャしながらこんな枕詞から自分の話を始めてくれる。でもそれはきっと、相手も話しやすくするような“呼び水”だ。
人懐っこい表情で「ちょっといいですか。最近もうホント大変で・・・」と切り出しながら、実は逆に“優しいカウンセリング”が始まっているのだ。