REPORT

書き物:いろいろ活動報告から雑感・妄想・昔話など。

2022-09-11-SUN

#17 サムライアリストテレス

「ボクはショーヨーハだから、歩きながら考えをまとめるんだよ」とタカハシさんは言う。
「は、ショーヨーハ? ですか?」初めて聞く言葉にうろたえる自分。
「そう、逍遥派。“逍遥”って散歩することね。昔アリストテレスは弟子たちと街を歩きながら議論して、哲学を深めていったんだよ」
いつもながらに自然と垣間見える教養深さに「ハァ、そうなんですか~」としか応対できない自分。これでは散歩のお供もできないぞと恥じ入るばかり。

タカハシさんは、自分をコンテンツビジネスの世界に誘ってくれた大恩人だ。物語の持つ力やその奥深さ、そしてビジネスの難しさとともに最高の楽しさがあることを教えてくれた。タカハシさんとの出会いがなかったら、いまの自分はないと断言できる。《素晴らしい物語を広く伝えるお手伝い》という当社テーマのひとつは、もとを辿れば彼の教えに繋がっていくのだ。

同じオフィスで働いていたころ、タカハシさんはいつもフラっと部下たちのデスク周りに現れた。長身にオシャレな服を身にまとい「最近どう?」とか「あの映画みた?」とか、世間話をしながらチームみんなの席を歩いてまわるのだ。そう、まさにこれが逍遥のシンボリックなシーン。

圧倒的な存在感のタカハシさんが不意に声をかけてくれるのは、緊張もするけど嬉しい瞬間だった。
このカジュアルトークをきっかけに、いったいいくつのアドバイスやアイデアをもらったことか。『万学の祖』アリストテレスばりに、ロジック系からクリエイティブ系までどんな課題でもサポートしてくれるオールマイティさは、まさにトランプのジョーカー。
いっぽう少し緊張したのは、その逍遥の腰元にはいつも切れ味抜群の刀がぶら下がっているから。
物事の本質に迫るスピードが尋常でなく速く、常に課題への是非がクリアなタカハシさんの前では、小手先の仕事やごまかしはあっという間に見抜かれて一刀両断されるのだ。

行く先々で大きな仕事を成し遂げて、あっという間に某社の日本トップになってしまったタカハシさん。
今も世界を相手に快刀乱麻のご活躍を続けている。
そして何より尊敬するのは、変わらないそのコミュニケーション・スタイル。どんな相手に対してもフラットで、遠慮も忖度もせずに単刀直入に切り込む胆力と誠実さこそが、きっとタカハシさんの哲学のひとつ。
ヒトは切らずにモノゴトを切る ― 逆刃刀を携えながら、逍遥のフィールドはさらに世界に拡がっている。